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仙台地方裁判所 昭和44年(ワ)273号 判決 1969年12月27日

原告

沢口木材株式会社

代理人

宇野聡男

被告

高橋正一

代理人

勅使河原安夫

沼波義郎

主文

被告は原告に対し、金九二万四、五三三円およびこれに対する昭和四四年四月二七日より完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

(申立)

原告は主文一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(主張)

第一、原告は請求原因として次のとおり述べた。

一、原告は木材販売を業とする株式会社である。

二、原告は被告に対し、昭和四二年二月一三日頃から同年九月一四日頃までの間に、代金毎月末締め切り翌月一〇日払の約定で継続的に木材類を売り渡し、その残代金は九二万四、五三三円となつた。

三、かりに、本件木材類の売買の相手方が被告ではなく、訴外高正木材株式会社(以下訴外会社という)であつたとしても、

① 被告は同訴外会社の代表取締役であること、

② 訴外会社は、本店所在地に企業活動が法人であることを認めさせうるに足る資産は何一つなく、その実体は全く被告の個人企業であること、

③ 被告は、本件取引などにおいて材料の仕入その他の債務負担行為は会社名義としながら、営業活動から生ずる収益は全部個人において取得し、訴外会社の責任財産としてみるべきものは一切残さない方法をとつていることなどからすれば、同訴外会社の存在は被告個人の資産確保と債務のがれに利用されているにすぎないこと、

④ また、被告は本件取引の当初にあつては、西松建設株式会社の社員であると称して同会社の信用を利用したため、原告としては信用ある会社の社員であるから被告個人も信用できると信じて取引を開始したものであること

したがつて以上のような場合は、たとえ本件取引が訴外会社名義でなされたものであつても、その相手方となつた原告は、会社という法人格を否認してあたかも法人格のないのと同様、右取引を背後者たる被告個人の行為と認めてその責任を追求しうるから、被告は本件売掛残代金の支払債務を免れないということができる。

四、よつて原告は被告に対し、本件売掛残代金九二万四、五三三円およびこれに対する昭和四四年四月二七日(訴状送達の翌日)から完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二、被告は、請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

一、請求原因一項の事実は認める。同二項の事実はすべて認めない。

二、請求原因三項の事実中訴外会社が原告と継続的に木材類の取引をしたこと、被告が同会社の代表取締役であることは認めるがその余の事実は認めない。

すなわち、原告は本件木材の取引の際、その相手方が当初から訴外会社であつてその代表取締役である被告個人ではないということを知つていたものであるから、原告は同会社の存在を否認することはできない。

(証拠)<省略>

理由

一請求原因事実中、原告は木材販売を業とする株式会社である旨の一項の事実および三項のうち訴外会社が原告と木材類の取引をしたことがあること、被告が同会社の代表取締役であること、については当事者間に争いがない。

二まず、原告との本件売買契約の相手方は被告であつたか、あるいは訴外会社であつたかどうかについて判断するに、<証拠>によれば原告は右会社宛に受領書を発行したことが認められるが<証拠>によれば、これは原告において被告の側の事務処理上必要あるものとして特に被告から右のような書類の発行を求められたためのものであること、また<証拠>によれば、被告は原告を知るようになつたのは原告と従来から木材類の取引があつた西松建設株式会社仙台支店仙台作業所の資材係の紹介によるものであつてそれまでは原告は被告はもちろんのこと訴外会社の存在も全く知らなかつたこと、原告が被告との間で木材類の取引をはじめたのは右紹介と被告が自介ら西松建設株式会社平塚作業所工長高橋正一なる名刺をさし出したうえ「自宅を建てるから木材を売つてほしい。」旨述べたため、原告において被告が信用ある会社の工長であるから同個人も信用できる人物であると信じた結果であることの事実が認められ、他にこれに反する証拠はない。

したがつて、以上の事実からするならば、原告が「高正建設(株)殿」なる領収書を発行したことは「高正建設(株)こと高橋正一殿」なる趣旨のものであつてその取引の相手方は被告個人とみるのを相当とする。

三しかもかりに、被告の主張するように右取引の相手方は被告個人ではなく、訴外会社であつたとしても被告はその取引に対する責任を免れないものというべきである。なぜならば<証拠>を総合すれば右訴外会社は、会社とはいつても本店は被告の自宅でありながら高正建設株式会社なる看板も出しておらず、事務員としては被告の妻だけであつて、本店所在地には法人としての企業活動を認めさせるような設備はほとんどないこと、したがつてこのように会社といつてもそれが形がい化して実質が全く個人企業で前記認定のとおり、その代表者たる個人を信用して取引する場合はその取引の相手方は会社という法人格を否認しあたかも法人格がないと同様、その取引の責任を背後者たる個人に対して求め得るものと解するを相当とする(最高裁昭和四三年(オ)第八七七号、昭和四四年二月二七日第一小法廷判決参照)からである。

四そこで次に原告に対する本件材木の売掛残代金の額について判断するに、<証拠>によれば、被告は昭和四二年二月一三日から同年九月一四日までの間に木材類を買掛け、その未払代金が九二万四、五三三円となつていることを認めることができ他にこれに反する証拠はない。

五よつて原告の被告に対する売掛残代金九二万四、五三三円およびこれに対する訴状送達の翌日であること明らかな昭和四四年四月二七日から完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は全部理由があるからこれを正当として認容することにし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。(藤枝忠了)

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